関東一円に住んでいる人間ならば、誰でも知っているキャッチフレーズ。だが、この言葉、よく考えると酷くおかしいことに気が付く。
何がおかしって、自社商品(電力)を買うな、という意味なのである。数あるCMの中でも自社の商品を買うな、という意味のCMをやっているのは電力会社ぐらいなものである。どこぞの会社の青汁のCMのように、意図的に自社商品を侮辱するようなCMをやる場合もあるが、それはあくまでも広告の一手法であり、決して本気で買うなと言っているわけではない。
ではなぜ電力会社はそんなCMを放送するのか。もちろん、あのCMは電力会社が金を払って放送しているのである。
理由の一つには、企業のイメージアップというものがある。CSRの一環として、環境保護を訴えるというのは正当な手段だ。しかし、だからといって自社商品を買うなというのはおかしい。自動車メーカーや石油会社は「地球に優しい商品」のCMをやっている。なのに、なぜ電力会社は直接的に「自社商品を買うな」と言っているのか。
もっと直接的な理由がある。それは、商品が売れなければ売れないほど、つまり、電力消費量が下がれば下がるほど利益が増える仕組みがあるのだ。というより、電力消費量の増大に伴い損失が増加するといった方がいいか。
電力会社はその役割上、決して停電を引き起こしてはならない。つまり、電力不足は何が何でも防がなくてはならない。しかし、電力は蓄積できない(東京一つ分の電力を蓄積できるような蓄電池は未だに存在しない)。だから、電力会社は、最大消費電力量を賄える程の発電設備を用意しなくてはならない。
発電・送電システムというものは、建設には金がかかるが、運用コストはそれに比較すれば低い。つまり、建設された発電所や送変電設備は、限界ギリギリまでこき使った方が儲かる。
しかし、電力消費量というものは、季節や気温などによって大きく異なる。夏場のクソ暑い時間帯には非常に多くなるが、そうでない時期や時間帯はかなり少ない。
だから電力会社としては、利益を増やすためには、電力消費量の少ない時間帯の需要を増やさなければならない。また、逆の考え方として、電力消費量が多い時間帯の需要を減らすという方法もある。そうすれば発電所や送変電設備を少なくすることができる。
他にも電力使用量が安定していれば、原子力発電による発電量を相対的に増やすことができる、というのもある。原子力発電所は他の発電方法に比較して、建設費は高いが運営コストは低いという傾向が強い。はっきり言って、一度できてしまえば、後はただみたいな値段で発電できるのだ。
また、技術的な問題として、原子力発電所は余り発電量を変動させない方がいい。安定して運用した方が安全性が高い。だから、原子力発電はベース電力を担うようにして使用している。
そこで、電力使用量が安定していれば、相対的なベース電力が増える事になるわけで、結果として原子力発電所の使用量を増加させ、火力発電所の使用量を削減できるようになる。
で、その電力使用量を安定させる手段の一つとして、蓄冷式のエアコンや、夜間電気温水器、IHクッキングヒーターなどといった物を売り込みをかける。そして、その裏返しで「電気を大切にね」というCMで、ピーク電力の削減を図る。
あの若奥様には結構ファンが多いようだが、ファンならばCMの本来の意味ぐらいは知っておくべきだろう。